賃料額確認の訴えが抽象的な合意だけでは争訟に当たらないとされた事例
不動産賃貸借における賃料額の確認を求める訴えが、当事者間に「公正な額で決定する」といった抽象的な合意があるだけでは「法律上の争訟」に当たらないとして却下された事例。(東京高裁平成13・10・29判決。判例時報一七六五号四九頁)
(事案の概要)
一、池袋駅西口に大型ビルを建設する事業に参加したX(常盤興業)は、ビルの三階部分(本件建物)の所有者となった。事業推進中、XとY(東武鉄道)は、Xを賃貸人、Yを賃借人とする賃貸借契約を締結しようとしたが、賃料額について合意に至らず、この点については「今後、XとYとは、それぞれ調査研究することとし、各々信用ある第三者の専門家に他の類似の百貨店の賃貸条件の調査を依頼し、それを持ち寄り、これらを尊重し、誠意をもって協議し、公正な額で決定する」との合意書を取り交わした。
二、平成4年ビル竣工、Yは東武百貨店に本件ビルを転貸した。月額賃料としてYは二○六三万円を、Xは約四六五○万円を、それぞれ主張して折り合いがつかず、Xが提訴。東京地裁は二五九三万円が相当との判決をした。
YもXも控訴。東京高裁は内容に入らず門前払い。
(判決要旨)
賃料額について右の合意書の程度の抽象的な合意しか成立していない本件においては、裁判所が合意に基く賃料額を証拠によって認定することは不可能。また裁判所に裁量によって賃料額を定める権限を付与した法律は存在しない。
本件は具体的な権利義務に関する争いではあるが、右の合意書の程度の抽象的な合意があるだけでは、現行法のいずれを適用しても具体的な賃料額を確認するという結論は得られないのであるから、本件訴えは「法律上の争訟」に当たらず、裁判所の権限に属しないことについて裁判を求めるものであるから不適法であり、却下は免れない。
(解説)
この判決は、XY間の当初賃料額(いったん決った賃料額の増減ではないことに注意)について「誠実に協議し公正妥当な賃料額を定めるものとする」とした抽象的な合意しかない場合には、裁判をすることができないとして一審判決を取消してXの訴えを却下(門前払い)した。
賃貸借契約をはじめて締結する場合に賃料額が決らないままスタートするという例はほとんど見かけないが、なぜこの判例を紹介したかというと、借地の更新料について契約書の中に「更新時には更新料を支払う」との文言がある場合、これが「抽象的な合意」であり、裁判にはなじまないということを知ってほしいと思ったからだ。
(弁護士 白石光征)
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