東京借地借家人組合連合会（過去のページ）

■消費者契約法

シリーズ vol.1

消費者契約法の消費者とは借家人で
建物を住居として利用する個人

　本年四月一日から消費者契約法が施行されています。

　「消費者」と「事業者」

　この法律で最も特徴がある点は、「事業者」と「消費者」の定義です。「事業者」とは、①「法人その他の団体」、②「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」です。それ以外の個人はすべて「消費者」です。「事業」とは、一定の目的をもった同種の行為がくり返し行われるものであり、営利目的の有無は問いません。この定義は非常に広いもので、国も「事業者」になりえます。
　消費者と事業者の間でなされる契約を「消費者契約」といいます。この「消費者契約」というのは、個別の売買契約、工事請負契約とは別の次元になり、個別の契約の上に消費者契約という網をかぶせるものです。

　借地借家人は「消費者」

　借地借家契約と消費者契約の関係は次ぎのようになります。

　（例１）個人の家主と個人の借家人が住居目的で借家契約をした場合、家主は事業として貸家契約をするので「事業者」になります。借家人は、個人で、しかも事業のための借家契約ではないので、「消費者」になります。この借家契約は「消費者契約」です。

　（例２）個人の家主と個人の借家人が店舗目的で借家契約をした場合、借家人は、個人ですが店舗営業という事業のために借家契約をするので「消費者」には該当せず、この借家契約は「消費者契約」ではありません。

　（例３）個人の家主と会社名義で住居として借家契約をした借家人は、たとえ住居目的であっても、契約の当事者が個人でなく会社名義なので、「消費者」には該当せず、この借家契約は「消費者契約」ではありません。

　では、借地借家契約が「消費者契約」である場合、借地借家人はどんな権利行使ができるのか？（次号へ）

　（弁護士　川名照美）

移転条件で合意
豊島区上池袋の加藤さん

近隣に新店舗開き再出発　移転料は当初提示の1.5倍で合意

　豊島区上池袋で中華料理屋を営業している加藤さんは、近所の噂で立退きの話がされていたので、あらかじめ城北借地借家人組合に加入していた。
　去年の11月に、家主の代理人という不動産業者が店に訪ねてきた。業者は「建物が老朽化したので立退いてほしい。立退補償や期限については話合う用意がある」と言ってきた。事前に組合に入っていた加藤さんは「借地借家人組合の組合員なので、今後の協議は組合を通じて行う」と返事をした。
　加藤さんは、今後も商売を続けていきたいと考えていてが、この機会に心機一転し、出直ししたいと心に決めて、今回の立退きの話をすすめることにした。
　交渉は組合が窓口となって家主の代理人の不動産業者と何回か話し合いをした結果、今年の1月に、立退補償を最初に提示した金額の1.5倍で合意した。
　新しい店舗も近所ですぐに見つかり、加藤さんは「組合のおかげで新しい店で、再出発ができます。後何年できるかわからないけれど頑張りたい」と語った。

借地更新料拒否

同一地主の借地人10世帯が
結束して契約更新期に対処　八王子市

　八王子市本町27番地に居住する大村さんをはじめとする借地人8世帯は、昨年、地主代理の不動産業者から「土地賃貸借契約の期限についてのご通知」という文書を送付された。
　通知は、契約期間が4月30日で満了することから「引続き契約を希望される方は、更新の契約を交わしたいと思います。更新の契約を交わすに当りまして……契約更新料がございます」として金額を提示してきた。更新料は坪数で違い、高い人で480万円、低い人で60万円。おおよそ坪5万円の計算。
　先代の地主の時代、昭和34年に借地人が結束して、当時29名の借地人で「本町二九借地組合」を結成し、当時は地代増額等で地主と団体交渉したり、地代を供託したり激しく争った。その後、先代が亡くなり、借地の土地も物納されたりして、現在は10世帯が残り、二九組合として継続して活動している。
　今回の更新料問題では、2月12日に多摩借組の事務局長を招いて打合せを行った。その結果、二九組合として多摩借組に団体加入することを決定。組合から早速、地主代理の不動産業者に対し、更新料についての支払義務のない旨と、借地人一同の総意として更新料の請求を拒否する通知を提出した。
　二九借地組合は、結成当時の組合員もほとんど亡くなり二代目が後を継いでいる。今回の問題をきっかけに皆で不当な請求をはね返えそうと結束を強めている。

供託家賃を返金

　台東区

　台東区鳥越に住む山崎さんは、昨年9月Ｄ開発の顧問弁護士から借家の契約解除を通告する内容証明郵便を受取った。山崎さんはどう対処していいのか解らず、台東借組へ相談した。組合は借家の継続使用の意思表示と要求には応じられないという趣旨の内容証明郵便を送った。すると、Ｄ開発は01年1月以降の家賃の受取を拒否する文書を送り付けてきた。
　近くに都営地下鉄「大江戸線」の駅が出来るので、2年程前から近所の地上げが続々と進んでいた。Ｄ開発は、既に何軒かの家と立退の交渉を決着させていて、山崎さんの家主も土地建物を既に売渡していた。
　今年の1月末、Ｄ開発の口座へ1月の家賃10万円を振込んだところ、2月の初めに、Ｄ開発はそれを小切手で送り返してきた。組合は家賃の受領拒否なので即刻法務局へ1月分の家賃を供託。数日後再度10万円を小切手で送り返してきた。小切手は取り敢えず預かって置き、2月末に2月分の家賃を供託した。

借地更新料を断り地代
は相当額で振込払い

　足立区

　足立区本木に住んでいる山川さんは、昨年10月で借地の契約更新を迎えた。
　地主がどんな事を言ってきても恐れない程勉強していたので、結構平常心で対応した。
　地主の更新料請求額は坪11万円、42坪で462万円だった。山川さんは早速、契約は法定更新する旨を通知した。すると地主は一カ月後に、今度は地代を坪当り80円値上げすると通知してきた。
　山川さんは、現行の地代が近隣の水準と比較してやや安めと思っていたので、坪20円の増額は認めると通知したが、その後なんの音沙汰もない。そこで1月分と2月分の地代を坪20円増額した相当額で振込んでいる。
　山川さんは「このまま済んでくれたら嬉しい」と言っている。

■判例紹介

自力救済条項があっても侵入したり
鍵を替える行為を違法とした事例

　建物賃貸借契約書に自力救済条項があっても、建物内に侵入したり鍵を取り替える行為が違法であるとされた事例（札幌地裁平成11年12月24日判決。判例時報一七二五号

（事実関係）
　1、賃借人Ｘ（原告）は平成10年7月、札幌市内のマンションの一室を賃借し妻とともに居住した。Ｙ（被告）はこのマンションの管理会社である。
　2、賃貸借契約書には次のような特約があった。
　「賃借人が賃借料の支払を七日以上怠ったときは、賃貸人は直ちに賃貸物件の施錠をすることができる。また、その後七日以上経過したときは、賃貸物件内にある動産を賃借人の費用負担において賃貸人が自由に処分しても賃借人は異議の申立てをしないものとする」（本件特約）
　3、Ｘは、「部屋に雨漏りがする、かびが発生した」など苦情を述べたが、Ｙは、かびによる被害の弁償には応じられない旨回答した。
　そこでＸは同年10月分から賃料の支払を停止した。するとＹはＸに対し、「督促及びドアロック予告通知書」、続いて「最終催告書」を送り付け、そこには、一定日時までに連絡がない場合には、以後何ら勧告することなくドアロックし部屋への立入りを禁止する旨記載されていた。
　4、管理会社Ｙの従業員は右日時の最終日、Ｘ夫婦が外出して留守の間、本件特約があることを根拠に、部屋に立ち入って、部屋内の水を抜き（水道管の破裂を防ぐため）、ガスストーブのスイッチを切り、浴室の照明器具のカバーを外すなどした上、部屋の錠を取り替えた。
　5、そこでＸはＹに対し、その行為は違法だとして損害賠償（慰謝料）の支払を求めて提訴した。
（判決）
　1、本件特約は、賃貸人側が自己の権利（賃料債権）を実現するため、法的手法によらずに、通常の権利行使の範囲を超えて、賃借人の平穏に生活する権利を侵害することを内容とするものである。
　2、このような手段による権利の実現は、近代国家にあっては、法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる場合のほか、原則として許されないものというほかなく、本件特約は、そのような特別の事情がない場合にも適用される限りにおいて、公序良俗に反し、無効である。
　3、本件の場合には右の「特別の事情」は認められず、Ｙの行為は違法であるからＸに対し慰謝料10万円支払うべきである。
（寸評）
　このような特約（自力救済）が入っている契約書はよく見かける。この判決の考え方はごく常識的であり、悪徳業者に対する警告として意味がある。

　（弁護士　白石光征）

「借地借家相談室」

借地契約書に建物の増改築を禁止する条項があるが建替えはできるのか

　借地上の木造建物を建替えたいのですが、契約書に増改築することを禁止する特約条項があります。地主の承諾が無いと建替えは出来ないのでしょうか。
（文京区・会社員45歳）

（回答）借地条件に合致していれば、既存の建物を増築したり、取壊して改築することは借地人の自由である。この自由を制限する特約の典型的なものが「増改築禁止特約」だ。しかし常に借地人がこの契約条件に拘束されていては借地の利用が制約されてしまう。
　そこで「増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは裁判所が借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる」（借地借家法17条項）として、地主が増改築禁止特約を盾に建替えを認めない場合でも、借地人が裁判所から地主の承諾に代わる許可の裁判を得れば適法に建物の建替えが行える。
　また木造などの非堅固建物から鉄骨造等の堅固建物へ改築する「借地条件の変更」の場合も、地主の反対があっても、裁判所に地主の承諾に代わる許可の手続を採れば改築はできる（17条1項）。裁判所は許可する場合、地代の増額、承諾料等の付随措置を併用して当事者間の利益の調整を図っている。同法17条は92年8月1日以前の契約にも適用される。
　改築の承諾料は、東京地方裁判所の95～99年の裁判例（50例）を調べると更地価格の2～5％が全体の84％を占めている。中でも更地価格の3～4％が28件でその中心をなしている。東京の承諾料は更地価格の3～4％が一応の目安といえる。増築の場合は、建物全面積に対する増築面積比の割合に承諾料の3～4％を乗じて計算する。
　「借地条件の変更」の場合の承諾料は、東京地裁の95～99年の裁判例52件中、更地価格の10％が44件で約85％を占め、東京地裁の「借地条件の変更」は更地価格の10％の承諾料で殆ど定着していると言える
。　結論としては、建替え承諾料として更地価格の3～4％（「借地条件の変更」の場合は10％）の金額を支払えば、仮に地主の反対があっても建替えは出来る。

道路拡張で頑張る
豊島区雑司ヶ谷の相楽さん達

借地権割合は70％を主張　関連借地人集会で集団交渉を確認

　豊島区南池袋から雑司ヶ谷にかけては、環状五号線の道路拡張の予定があり、東京都第四建設事務所が補償について権利関係者との話合いが行われている
。　道路拡張での東京都の補償は、土地を所有していても、自己資金がないと莫大な借金をしなければ、近隣での生活再建はできない。まして借地では、更に厳しい状況だ。
　この地域に住む組合員の設楽さんは、東京都との交渉で地主側から、借地権割合を六対四で補償すると言われた。それでなくても少ない補償で「地元での生活再建はできない」と困っていた。
　組合でも、この問題を重視して、設楽さんの家で関係者を集めて「勉強会」を開いた。当日は、十数名の組合員が集まり、熱心に質問した。とくに、借地権割合は六対四ではなく、七対三の割合にするように東京都と交渉することを組合員全体で確認し、2月頃には、東京都第四建設事務所と組合員を中心として借地人が団結して、集団で交渉することを確認した。

借地明渡で勝訴

接道間口が僅か1メートル「建
替居住」地主の正当事由を否定　墨田区

　墨田区東向島で30坪の土地を借り、木造二階建ての建物を建て居住している村上さんは昨年3月に地主から建物収去土地明渡請求で東京地方裁判所に提訴された。昨年11月に判決が下り「原告の請求を棄却する」との内容で村上さんが全面勝訴。地主が控訴せず判決が確定した。
　事の起こりは、前地主が借金を返済できず土地に設定した抵当権に基づき、昭和59年競売が開始された。平成元年に現在の地主が566万円で買取り、地主の地位を承継した。その後、地主は地上げ屋を使って土地の明渡を迫り通路妨害などいやがらせを行った。平成2年に村上さんは、通路の占有使用妨害禁止の仮処分を申請し、平成3年に賃借権存在確認請求で提訴し、平成4年に和解が成立した。その時に契約の期限を平成11年12月31日と定めた。
　平成11年7月に地主は更新を拒絶する通知を寄越したが、村上さんは直ちに明渡しを拒否する回答を出した。その後地主が起こした調停は平成12年2月に不調となった。
　今回の判決では、地主の更新拒絶の理由に正当事由があるかどうかが争点となった。判決理由では「本件土地は公道に接してはいるものの、間口は1ｍにも満たないもので、…本件土地が建物用地として適格性があるものとは認められない。そうすると、更新を拒絶して本件土地の明渡を求めることによって原告の目的（建替えて家族と一緒に暮す）を達することは困難である」と判示した。

店舗の明渡を断る　　大田区

　大田区西蒲田三丁目で美容院を営む船田さんは、東京オリンピックの昭和39年に新築された木造二階建店舗兼共同住宅の店舗と2階の2部屋をかりた。
　家主は隣接する自ら所有の賃貸建物が空家になり、老朽化したとして建替えることにし、ついでに船田さんに賃貸している建物も老朽化したので一緒に建替えるとして、明渡を請求してきた。
　船田さんは、近所に手頃な店舗物件があったので、家主との協議に応じたが、家主は、退職し新たな会社に就職したが給料が安く、生活が大変だとして、補償の条件が折り合わず協議は決裂した。
　21世紀を無事に迎えられたと思いきや、1月5日付の内容証明郵便を開くと従前と同じ理由で9月末日までに明渡せとの通知。
　船田さんは、諦めない家主の請求に対し、不況の中で自分の首を絞めるような明渡は断固拒否して頑張る決意をしている。

敗訴に懲りない家主
調停決着4カ月後に再調停　北区

　戦前から北区赤羽に住んでいる北川さんは、平成10年に家主から明渡訴訟を起こされ、組合の援助で勝訴した。ところが、懲りない家主は、平成12年に家賃値上げの調停にかけてきた。北川さんは、この調停には誠実に対応して、一部家賃の値上げを認めて和解した。
　非常識な家主は、この調停成立の4カ月後に再び家賃値上げの調停を起こしてきた。北川さんは、調停には出席しない旨を裁判所に通知して調停を不成立にした。
　すると家主は今度は訴訟を起こしてきた。北川さんは組合と相談し「家主の意図は明渡しの嫌がらせ」であることは明白との結論に達し、断固闘うことを確認した。
　それにしても、この家主の執念には驚かされるが、今のところ相手側には弁護士がついていない。

■判例紹介

平成6年度の固定資産税評価が適正
な時価を上回り違法とされた事例

　固定資産税台帳に登録された平成六年度の価格が賦課期日における適正な時価を上回るものとして違法とされた事例（東京高裁平成12年4月19日、判例時報一七二九号38頁）

（事実）
　自治省は、平成6年度の土地の評価について、地価公示価格あるいは鑑定価格の7割程度を目途とする旨の平成4年1月22日自治省三号事務次官通達（いわゆる七割通達）を発した上、平成4年7月1日を鑑定時点とし、平成5年1月1日を価格認定時点とし、その間の地価下落率を勘案し、時価の七割を目途として、標準宅地の価格を認定すべき旨の通知を発した。（平成4年11月26日自治省二八号税務局資産評価室長通知）
　これに対して、従前の評価水準が地価公示価格の二、三割であったのが、著しく高額な価格になったこと及び平成5年から6年にかけて大幅な地価下落があったことから、これらの点が評価基準に反映されていないとして都市部を中心に固定資産評価審査委員会に審査申出や審査決定に対する取り消し訴訟が相次いだ。
　本件は、原告らは、港区赤坂に所在する土地に係かる案件である。
　一審の東京地裁判決は、平成5年1月1日から平成6年1月1日までの地価下落率を平成4年7月1日から平成5年1月1日までの間の地価下落率があるものと想定してこれを評価に反映させるのが相当としたが、東京都固定資産評価審査委員会は、これを不服として、東京高等裁判所に控訴を申立てた。
（争点）
　固定資産課税台帳に登録された価格が時価を上回るか否か。
（判決要旨）
　東京高栽判決は、平成5年1月1日から平成6年1月1日までの地価下落率33・5％が、最も地価下落率を正確に反映するものとして採用し、これを超える部分について審査の申出を棄却した決定を取り消した。
（短評）
　地方税法では、宅地に課せられる固定資産税は、賦課期日における価格に税率を乗じたものとされている。そして、価格については、「適正な時価」とされ、賦課期日については、三年毎の1月1日とされている。
　本判決は、七割通達について、登録価格が賦課期日における適正な時価を下回る場合には当該登録価格が是認されるが、登録価格が適正な時価を上回る場合には、その限度で取り消すとしたものである。このことは、七割通達が適正な時価を超えないよう控え目な算定をしていることを認めるものであり、結局、年間の地価下落率が三割を超えない限り違法にならないとしたものである。この結果、その後の平成9年、平成12年の評価替えについては、地価下落率が三割を超えない以上、違法の問題は発生しないことになる。なお、本件は最高裁に上告されており、今後の判断が待たれる。

　（弁護士　榎本武光）

「借地借家相談室」

借家契約終了時に「原状回復費用は借家人の負担」とする特約は有効か

　借家契約書に「契約終了時の本物件の原状回復費は賃借人の負担で行う」と書いてありますが、そのとおりに借家人が負担しなければならないものでしょうか。
（台東区・会社員52歳）

（回答）原状回復の規定は、民法598条の「借主ハ借用物ヲ原状ニ復シテ之ニ付属セシメタル物ヲ収去スルコトヲ得」の条項に基づく。借主は借りた物が自然に変化したものであれば、その状態のままで返す。設置物を取付けた場合は、それを取除き、運び込んだ物は撤去する。民法の「原状回復義務」は、収去義務のこと。
　近年、家主側は借家人の費用負担で「借りた当時の状態」への修復、つまり原状回復という名目のリフォームを要求する。だが、①「原状回復条項があるからといって、賃借人は建物賃借当時の状態に回復すべき義務はない」（東京簡裁95年8月判決）②「返還にあたって自然の損耗や汚損についての改修の費用を負担して賃貸当初の原状に復する義務を負っているとは認められない」（京都地裁95年10月判決）というのが原状回復に対する裁判所の見解である。
　原状回復費と修繕費は借家人の負担という特約は、「賃貸人において修繕義務を負わないという趣旨に過ぎず、賃借人が義務を負う趣旨ではない」（最高裁68年1月判決）また、特約条項は「賃借人の故意又は過失による建物の毀損や通常でない使用方法による劣化についての原状回復義務を定めたもの」（京都地裁97年6月判決）とあるように、通常でない使用に起因する損害に限られる。「通常の用法に従った使用に必然的に伴う汚損・損耗は原状回復義務の対象にならない」（東京地裁94年7月判決）ということであるから、建物を通常使用していれば、原状回復費を借家人が負担する必要はない。「仮に賃貸人が賃貸当初の原状回復のためにこれらの費用を支出したとしても、それを賃借人に請求し、あるいはそれを敷金から差引くことは許されない」（京都地裁95年10月）ということである。
　借家人にリフォーム費用や修繕費用を一方的に押付ける特約条項は、今年の4月1日から施行される「消費者契約法」で無効になる可能性がつよい。（今年４月１日以降に契約したものに限る）

敷金全額取戻す
台東区谷中の宮本さん

住宅金融公庫の融資物件　法律違反の礼金30万円も取戻す

　宮本さんは、引越に際し不動産会社に前のマンション（台東区谷中）の敷金返還を要求したところ、「原状回復費に50万円掛るので敷金45万円を充当します。不足金5万円をお支払い下さい」と驚くべき言葉が返ってきた。
　困っていたところ組合を紹介された。原状回復に対する組合の説明は、故意・過失によるもの以外は賃借人に回復義務責任がないということだ。交渉は直接家主とすることにした。
　数日後、組合の調査でそのマンションは、住宅金融公庫から融資を受けて建てたものであり、登記簿を調べると、借入金の返済中ということが分かった。
　住宅金融公庫法第35条、同法施行規則10条1項で家賃及び敷金（家賃の3月分を超えない額）を受領することを除く外、賃借人から権利金、謝金等の金品の受領を禁止されている。即ち、公庫融資を受けた家主は借入額を完済するまで、礼金・更新料等の受領及び敷金の一定額の償却も禁止されている。
　組合は住宅金融公庫へ電話を入れ、公庫法違反の家主に対し厳重指導（同法46条による刑事罰適用又は融資の繰り上げ返済請求等）を申し入れた。加えて、家主に内容証明郵便を送った。その内容は、「(1)原状回復費用負担の拒否(2)住宅金融公庫法違反の礼金30万円返還(3)敷金45万円の返還」というもの。
　住宅金融公庫への電話談判の効果が現れ、後日、要求の全額が銀行口座に振込まれた。

地主は学校長

更新料地価の5％根拠なし
地主を説得し更新で合意　藤野町

　ＪＲ立川駅から高尾駅で中央本線に乗換えて二つ目の駅が藤野駅。次の上野原駅は山梨県だがここは神奈川県。駅から徒歩で5～7分程の藤野町小渕で借地人七軒が多摩借組に昨年11月に加入した。
　20年前の更新の時、先代の地主が坪当り5万円という法外な更新料を請求してきたため、当時20軒ほどの借地人で組合をつくり、弁護士を代理人に立て交渉し和解した。その後、先代が亡くなり、底地を買った人や地主も相続で土地を分割し、現在は七軒がまとまっている。
　そのうちの一軒の倉田さんが昨年の11月末が20年目の更新となり、昨年9月に地主から坪当り二万円の更新料を請求する通知が来た。倉田さんは近所の借地人の人達と相談し同じ町の多摩借組組合員から組合の存在を聞いていたため、早速10月末に組合を訪ね三軒が加入した。
　地主は町の小学校の校長を勤め、借地人の子供も生徒だったという関係で中々交渉しづらいこともあって、多摩借組の役員が代理で交渉に当った。更新料は地価の5％と主張する地主に対し、更新料には相場も算定根拠もないことを説明したところ、地主は坪二万円の請求は撤回し従前と同じ条件で和解した。
　新しい契約書は無断増改築禁止特約の無い契約書を組合で作成し、昨年暮に倉田さん宅で借地人全員が集まって地主との間で更新の合意書を作成した。

再度更新拒絶の通告
８年前にも明渡断る　大田区

　大田区西馬込一丁目所在の木造二階建て建物を長年、作業所兼居宅として借りている上岡さんは、この建物の所有権を平成4年に隣人が買取った。
　新家主は、自己居住用に購入したので、すぐに明渡せと請求された。上岡さんは、家主の明渡請求を拒否して、そのまま住み続けていたが、昨年8月に再び明渡を求められ、知人の紹介で組合に加入した。家主の「自己居住用として購入した」ことを強調しての執拗な明渡請求に対して、上岡さんは、組合を通じて「明渡拒否」を通告した。家賃は受領を拒否されたため供託している。
　この程、調停裁判の呼出状を受取ったが、上岡さんは年末を迎えて多忙なため、期日を延期し、次回調停から応じることにした。
　上岡さんは、家主を子供の頃から知っているにも関わらず、入居者を無視し借家人の権利を踏みにじる理不尽な行為に、怒りを新たに臨む決意をしている。

明渡要求あっさり立ち消え　足立区佐野

　足立区佐野の加藤さんは、昨年八月に突然、借家の明渡を要求された。その時は、体調を崩し胃の全摘出手術をして退院したばかりのことで、大いに動揺した。
　家主に頼まれた不動産屋から「三ヶ月後に明渡せ」と言われ、その理由は建物が古いから、ということだった。
　加藤さんは、知人の紹介で組合に相談した。
　組合と打合せをしながら、家主と交渉していたが、ある日、家主に「実は組合と相談しながらやっている、都営住宅が当るまで待ってほしい」と伝えたら「ああそうですか」と言ったきり。
　その後は、毎月の家賃を集金にくるだけで、何も言わなくなった。

「借地借家相談室」

地主から土地明渡しを求められているが借地権を買取ってもらえるか

　父親の代から借地をしています。父親は20年前に亡くなり長男である私が借地を相続しています。地主は最近になって、自分の息子に住わせたいので来年20年の更新時に土地を明渡せと言ってきています。
　現在夫婦二人で生活していますが、私の息子は結婚して郊外に家を購入し生活しています。息子に相談したところ「それなら一緒に生活してもいい」と言ってくれました。その場合借地権はどうしたら良いか思案に暮れています。何か良いアドバイスがあったら教えて下さい。
（足立区・無職68歳）

（回答）借地の契約期間が満了しても借地上に建物が存在すれば、地主が更新を拒絶するためには正当事由が必要となります。地主の息子に住わせたいと言うだけで正当事由が認められるわけではありません。地主と借地人双方の土地を必要とする事情（目的の土地が居住または営業にとって不可欠か、生計維持にとって必要か、移転が可能か費用がかかるか資力があるか、借地人により利用されているか、地主の土地利用計画に具体性・現実性があるか）等々を比較して正当事由の有無が判断されます。
　したがって、地主が更新しないからと言って単純に土地を明渡さなければならないと借地人の方で判断するのは早計です。更新時に更新拒絶の正当事由が存在しなければ、借地契約は再び20年間更新されます。
　仮に、土地を明渡してもいいと思っていても、こちらから申し出れば、地主から「更地にして返せ」と言われかねません。土地を明渡せと言うのであれば、借地権や建物の補償、移転料等について地主側で支払う意思があるか交渉することが先決です。
　地主の方で条件もなく明渡を求めるのであれば、明渡はキッパリと拒否し借地契約は法定更新に持込みましょう。その上で、地主の出方をよく見てみましょう。地主が本当に土地を必要としていれば、条件について話し合いに応じる可能性はあると思います。
　地主と話し合いが無理であれば、借地権を他人に譲渡するか借地上の建物を賃貸することもできますが、借地権の譲渡は買手を見つけ、地主の承諾が必要です。交渉のやり方等については組合とよく相談することをお勧めします。

	2001年1月15日第406号	敷金全額取戻す台東区谷中の宮本さん住宅金融公庫の融資物件　法律違反の礼金30万円も取戻す　宮本さんは、引越に際し不動産会社に前のマンション（台東区谷中）の敷金返還を要求したところ、「原状回復費に50万円掛るので敷金45万円を充当します。不足金5万円をお支払い下さい」と驚くべき言葉が返ってきた。　困っていたところ組合を紹介された。原状回復に対する組合の説明は、故意・過失によるもの以外は賃借人に回復義務責任がないということだ。交渉は直接家主とすることにした。　数日後、組合の調査でそのマンションは、住宅金融公庫から融資を受けて建てたものであり、登記簿を調べると、借入金の返済中ということが分かった。　住宅金融公庫法第35条、同法施行規則10条1項で家賃及び敷金（家賃の3月分を超えない額）を受領することを除く外、賃借人から権利金、謝金等の金品の受領を禁止されている。即ち、公庫融資を受けた家主は借入額を完済するまで、礼金・更新料等の受領及び敷金の一定額の償却も禁止されている。　組合は住宅金融公庫へ電話を入れ、公庫法違反の家主に対し厳重指導（同法46条による刑事罰適用又は融資の繰り上げ返済請求等）を申し入れた。加えて、家主に内容証明郵便を送った。その内容は、「(1)原状回復費用負担の拒否(2)住宅金融公庫法違反の礼金30万円返還(3)敷金45万円の返還」というもの。　住宅金融公庫への電話談判の効果が現れ、後日、要求の全額が銀行口座に振込まれた。地主は学校長更新料地価の5％根拠なし地主を説得し更新で合意　藤野町　ＪＲ立川駅から高尾駅で中央本線に乗換えて二つ目の駅が藤野駅。次の上野原駅は山梨県だがここは神奈川県。駅から徒歩で5～7分程の藤野町小渕で借地人七軒が多摩借組に昨年11月に加入した。　20年前の更新の時、先代の地主が坪当り5万円という法外な更新料を請求してきたため、当時20軒ほどの借地人で組合をつくり、弁護士を代理人に立て交渉し和解した。その後、先代が亡くなり、底地を買った人や地主も相続で土地を分割し、現在は七軒がまとまっている。　そのうちの一軒の倉田さんが昨年の11月末が20年目の更新となり、昨年9月に地主から坪当り二万円の更新料を請求する通知が来た。倉田さんは近所の借地人の人達と相談し同じ町の多摩借組組合員から組合の存在を聞いていたため、早速10月末に組合を訪ね三軒が加入した。　地主は町の小学校の校長を勤め、借地人の子供も生徒だったという関係で中々交渉しづらいこともあって、多摩借組の役員が代理で交渉に当った。更新料は地価の5％と主張する地主に対し、更新料には相場も算定根拠もないことを説明したところ、地主は坪二万円の請求は撤回し従前と同じ条件で和解した。　新しい契約書は無断増改築禁止特約の無い契約書を組合で作成し、昨年暮に倉田さん宅で借地人全員が集まって地主との間で更新の合意書を作成した。再度更新拒絶の通告８年前にも明渡断る　大田区　大田区西馬込一丁目所在の木造二階建て建物を長年、作業所兼居宅として借りている上岡さんは、この建物の所有権を平成4年に隣人が買取った。　新家主は、自己居住用に購入したので、すぐに明渡せと請求された。上岡さんは、家主の明渡請求を拒否して、そのまま住み続けていたが、昨年8月に再び明渡を求められ、知人の紹介で組合に加入した。家主の「自己居住用として購入した」ことを強調しての執拗な明渡請求に対して、上岡さんは、組合を通じて「明渡拒否」を通告した。家賃は受領を拒否されたため供託している。　この程、調停裁判の呼出状を受取ったが、上岡さんは年末を迎えて多忙なため、期日を延期し、次回調停から応じることにした。　上岡さんは、家主を子供の頃から知っているにも関わらず、入居者を無視し借家人の権利を踏みにじる理不尽な行為に、怒りを新たに臨む決意をしている。明渡要求あっさり立ち消え　足立区佐野　足立区佐野の加藤さんは、昨年八月に突然、借家の明渡を要求された。その時は、体調を崩し胃の全摘出手術をして退院したばかりのことで、大いに動揺した。　家主に頼まれた不動産屋から「三ヶ月後に明渡せ」と言われ、その理由は建物が古いから、ということだった。　加藤さんは、知人の紹介で組合に相談した。　組合と打合せをしながら、家主と交渉していたが、ある日、家主に「実は組合と相談しながらやっている、都営住宅が当るまで待ってほしい」と伝えたら「ああそうですか」と言ったきり。　その後は、毎月の家賃を集金にくるだけで、何も言わなくなった。
		「借地借家相談室」地主から土地明渡しを求められているが借地権を買取ってもらえるか　父親の代から借地をしています。父親は20年前に亡くなり長男である私が借地を相続しています。地主は最近になって、自分の息子に住わせたいので来年20年の更新時に土地を明渡せと言ってきています。　現在夫婦二人で生活していますが、私の息子は結婚して郊外に家を購入し生活しています。息子に相談したところ「それなら一緒に生活してもいい」と言ってくれました。その場合借地権はどうしたら良いか思案に暮れています。何か良いアドバイスがあったら教えて下さい。（足立区・無職68歳）（回答）借地の契約期間が満了しても借地上に建物が存在すれば、地主が更新を拒絶するためには正当事由が必要となります。地主の息子に住わせたいと言うだけで正当事由が認められるわけではありません。地主と借地人双方の土地を必要とする事情（目的の土地が居住または営業にとって不可欠か、生計維持にとって必要か、移転が可能か費用がかかるか資力があるか、借地人により利用されているか、地主の土地利用計画に具体性・現実性があるか）等々を比較して正当事由の有無が判断されます。　したがって、地主が更新しないからと言って単純に土地を明渡さなければならないと借地人の方で判断するのは早計です。更新時に更新拒絶の正当事由が存在しなければ、借地契約は再び20年間更新されます。　仮に、土地を明渡してもいいと思っていても、こちらから申し出れば、地主から「更地にして返せ」と言われかねません。土地を明渡せと言うのであれば、借地権や建物の補償、移転料等について地主側で支払う意思があるか交渉することが先決です。　地主の方で条件もなく明渡を求めるのであれば、明渡はキッパリと拒否し借地契約は法定更新に持込みましょう。その上で、地主の出方をよく見てみましょう。地主が本当に土地を必要としていれば、条件について話し合いに応じる可能性はあると思います。　地主と話し合いが無理であれば、借地権を他人に譲渡するか借地上の建物を賃貸することもできますが、借地権の譲渡は買手を見つけ、地主の承諾が必要です。交渉のやり方等については組合とよく相談することをお勧めします。

消費者契約法の消費者とは借家人で建物を住居として利用する個人

移転条件で合意 豊島区上池袋の加藤さん

近隣に新店舗開き再出発 移転料は当初提示の1.5倍で合意

借地更新料拒否

同一地主の借地人10世帯が 結束して契約更新期に対処 八王子市

供託家賃を返金

台東区

借地更新料を断り地代は相当額で振込払い

足立区

自力救済条項があっても侵入したり 鍵を替える行為を違法とした事例

借地契約書に建物の増改築を禁止する条項があるが建替えはできるのか

道路拡張で頑張る 豊島区雑司ヶ谷の相楽さん達

借地権割合は70％を主張 関連借地人集会で集団交渉を確認

借地明渡で勝訴

接道間口が僅か1メートル「建 替居住」地主の正当事由を否定 墨田区

店舗の明渡を断る 大田区

敗訴に懲りない家主 調停決着4カ月後に再調停 北区

平成6年度の固定資産税評価が適正 な時価を上回り違法とされた事例

借家契約終了時に「原状回復費用は借家人の負担」とする特約は有効か

敷金全額取戻す 台東区谷中の宮本さん

住宅金融公庫の融資物件 法律違反の礼金30万円も取戻す

地主は学校長

更新料地価の5％根拠なし 地主を説得し更新で合意 藤野町

再度更新拒絶の通告 ８年前にも明渡断る 大田区

明渡要求あっさり立ち消え 足立区佐野

地主から土地明渡しを求められているが借地権を買取ってもらえるか

消費者契約法の消費者とは借家人で
建物を住居として利用する個人

移転条件で合意
豊島区上池袋の加藤さん

近隣に新店舗開き再出発　移転料は当初提示の1.5倍で合意

同一地主の借地人10世帯が
結束して契約更新期に対処　八王子市

　台東区

借地更新料を断り地代
は相当額で振込払い

　足立区

自力救済条項があっても侵入したり
鍵を替える行為を違法とした事例

道路拡張で頑張る
豊島区雑司ヶ谷の相楽さん達

借地権割合は70％を主張　関連借地人集会で集団交渉を確認

接道間口が僅か1メートル「建
替居住」地主の正当事由を否定　墨田区

店舗の明渡を断る　　大田区

敗訴に懲りない家主
調停決着4カ月後に再調停　北区

平成6年度の固定資産税評価が適正
な時価を上回り違法とされた事例

敷金全額取戻す
台東区谷中の宮本さん

住宅金融公庫の融資物件　法律違反の礼金30万円も取戻す

更新料地価の5％根拠なし
地主を説得し更新で合意　藤野町

再度更新拒絶の通告
８年前にも明渡断る　大田区

明渡要求あっさり立ち消え　足立区佐野