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東京借地借家人新聞



建替え承諾取る

大田区羽田の村石さん

高齢の母親と同居するため

高齢の母親と同居するため

 東京都狛江市に居住の村石さんは、大田区羽田3丁目に住む父親が死亡し、その地位を継承した上で建物を建替えて母親と共に生活することになった。以前から父親が組合に加入していたので、組合に相談した。
 母親との生活を急ぐことから狛江市の自宅の処分(売買)も決まり、5月の連休明けには建替工事を着工、遅くとも8月には家族共々移り住みたいとの要望だが、果たして一ヶ月で建替えの承諾が取れるだろうか。
 組合では当時、同一地主と別件で協議中であり、また地主には、15年前に更新料を支払わずに合意更新を押し切られたとの思いを強く持つため交渉は困難が予想された。
 別件との地価の整合性をどう図るか、どちらを先にまとめる方が有利に早く承諾が取れるかなど難しい話し合いになった。
 しかし、地主は「母親と一緒に生活するため」との村石さんの建替理由に理解を示し、また永年の交渉で組合を信頼したのか、村石さんと組合役員が相談して決めた当初の予定額で承諾と更新契約も合わせて、三回目の交渉で合意した。新築工事は予定どおり着工し完了した。




明渡しを撤回

更新料の支払特約や借主に

不利な特約を削除して契約

立川市

 立川市富士見町7丁目で木造モルタル2階建店舗兼居宅1棟を借りている関田進さんは、平成5年8月以来、契約条件について協議が成立しないまま法定更新されていた。今年の10月に家主側が全面譲歩して8年ぶりに契約書を交わして合意更新した。
 関田さんは、昭和44年に靴店を営業するために当地に開店。賃貸借契約は当初10年間だったが、平成元年8月に家賃月額4万円、次の契約更新時に家賃を2千円値上げし、更新料を1ヶ月支払う約束で4年契約を結んだ。家主側は4年後に何も言ってこなかったため、関田さんは平成5年8月から自主的に家賃を月額2千円増額し、4万2千円を家主に送金した。
 平成9年になって突然家主代理の不動産業者が現れ、前回と今回の2回分の更新料を払って更新するよう要求してきた。話し合いはつかず5ヶ月経過した後、家主の名前でいきなり内容証明郵便で更新料2か月分と家賃の差額が未払いであるとの理由で契約を解除するとの通知が送られてきた。関田さんは組合と相談し、契約は平成5年8月以来法定更新していると主張し、約定更新料1か月分のみ送金し、明渡しを拒否。その後家主は組合の主張に反論できず明渡しは事実上撤回。今回不動産業者を介して契約書を作成したいと言ってきた。話し合いの結果、次の更新時に更新料を支払う約束や不利な特約を削除させ、家賃月額4万4千円で平成17年8月までの4年契約を結んだ。




地代坪280円の値下げ

今後地代は双方協議で決める

北 区

 本紙の9月15日号に掲載された「地代の値下げで地主と交渉」の記事の続報。  借地人の大泉さんは組合役員と一緒に地主の代理人「公和開発」と数回にわたり交渉を重ねてやっと決着した。
 地代は坪当たり月額一一三○円を八五○円に値下げで決着した。敷地は約49坪なので月額一万三千七百円余の減額になった。
 この他に、新規の契約書を作成することになり、契約書の中の借地人に不利な条項を削除させた。それは、地代の値上げは地主が請求できるとなっていたものを、増減額は双方の協議で決めると改善したもの。
 坪八五○円の地代額は、固定資産税と都市計画税額から見てまだ高いが、近隣の地代水準を見ながら今後も減額できる環境を作っておく必要があったためだ。




敷金裁判に家主欠席で敗訴

中野区新井

 中野区新井2丁目でアパートを借りていた小澤正樹さんは、家主の代理の不動産業者から送られてきた「精算書兼請求書」を見て驚いた。
 小澤さんは、今年の6月7日に4年住んでいたこのアパートを退去した。5月30日に6月分家賃を支払っているにもかかわらず、この請求書には家賃の未納分を日割りで返せと、まず書かれていた。次に、敷金を上回る原状回復費の請求が加算されていた。
 小澤さんは、未納どころか、家賃は精算返還してもらわなければならないはずだし、故意にこわしたものは何も無いのだから敷金が全く戻らないのは納得できないと考え、西部借組の敷金返還システムを利用した。少額訴訟の裁判は、当日に家主が欠席したため小澤さんの全面勝訴となった。
 その後も、家主はとぼけて逃げ回っていたが、裁判所から全額支払えという判決文が送られて来たため慌てて敷金全額を銀行に振込んだ。




 ■判例紹介  

借地上の建物が火災による消失で滅失した場合の掲示と借地権の対抗力

 借地上の建物滅失後の掲示と借地権対抗力(東京地裁平成一二年四月一四日判決、金融商事判例一一〇七号)

(事案の概要)
借地人の建物は、平成一〇年一二月三〇日、火事で燃えてしまった。借地人は、平成一一年三月一八日、借地借家法一〇条二項による掲示(消失建物及び建物建築予定等の必要事項)をしたが、何者かによってその掲示が取り外された。そこで、同年三月二五日、二六日にも同様の掲示をしたが、これらも取り外されていた。本件土地は、その間に売却されて、平成一一年四月二三日、被告に買われて所有権移転登記がなされてしまった。借地人は、被告に対して、借地権の確認を求める訴訟を提起したが、被告は、本件土地を買い受けた当時、本件土地上には建物がなく、建物が存在していたことを示す掲示もなかったので、借地権を対抗することができないと、争った。

(判決要旨)
「法一〇条二項の規定は、建物が滅失して借地上に存在しなくなっても、滅失した建物の残影があれば、それからその土地上には土地利用権が設定されているとの推測が働き、建物登記簿も調べて借地権の存在を知ることができるとの考えから設けられたものである。すなわち、無効となった登記に一定の条件の下に余後効を認めるとともに、もはや建物が存在しない現地と建物登記を結び付ける方法として掲示を要求し、それに滅失建物を特定する事項を記載すべきものとした。法一〇条二項は、掲示上の表示と滅失した建物登記とが一体となって暫定的に借地権の対抗力を維持しえるものとした。
借地上の建物の滅失により、掲示がなされるまで一時的にその借地権の対抗力は消滅するのであり、建物滅失後この掲示をするまでの間にその借地について第三者が権利を取得した場合には、その後に掲示を行っても借地権を対抗することはできない。また、法一〇条二項の定める掲示は滅失した建物の残影に他ならないから、掲示が一旦なされた後に撤去された場合には、その後にその土地について借地権の負担のない所有権を取得した第三者に対しては、借地権を対抗することができなくなる。第三者に対して借地権の対抗力を主張するためには、掲示を一旦施したというだけでは不十分であり、その第三者が権利を取得する当時にも掲示が存在する必要がある。」

(説明) 借地権を第三者に対抗するには(認めさせるには)、建物が借地人名義で登記されていること、建物が存在することが必要。建物が火事、建替で滅失したときは、「滅失建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示」すれば、この掲示が建物の身代わりとなる。この掲示は新建物が建築されて登記されるまでの間継続させないといけない。掲示の保全につき、注意を喚起させる事例である。

 (弁護士 川名照美)

2001年11月15日
第416号

借地借家相談室」

13年前に地代の値上げを請求されたが地代の増額請求に時効はないのか

(問)平成2年4月地主から大幅な地代(5月分から)の値上げを要求され、以来、地代を供託している。ところが、平成13年10月、地代の再値上げを通告され、加えて、平成2年5月分からの差額地代についても請求された。地代の増額請求に時効はないのでしょうか。(足立区自営業)

(答)増額請求権は形成権であるから貸主の増額する旨の一方的意思表示(増額の申入れ)が借主に到達した時に以後相当額に増額されたことになる(最高裁判昭36年2月24日)地代家賃の増減請求権(借地借家法11条・32条)は、建物買取請求権、解除権等と同じく請求権者が相手方に対して地代等を増減する旨の意思表示をすれば、相手方が承諾しなくても、値上げ値下げの効果が発生する権利である。「形成権は権利者の一方的行為によって法律関係の変動(発生・変更・消滅)を生ぜしめうる権利」(広辞苑)であるという。学説の多数は、形成権の期間制限の規定は時効期間ではなく除斥期間を定めているものとしている。地代家賃の増減請求権は、条文上期間の制限がない。期間の定めのない形成権については、それぞれの権利の性質に応じた除斥期間に服するとされている。地代家賃等の賃借料は民法169条(定期給付債権の短期消滅時効)により5年で消滅時効になるので、増減請求権の除斥期間は5年となる。即ち、貸主の値上げ請求のあった日から5年で請求権は消滅する。このように賃料増減請求権の行使に時間的な制限を加えて期間の限定を設ける。これによって、権利を有しながら長期間無為に行使しない「権利の上に眠る」貸主に、請求権行使に5年という枠を嵌め、裁判制度を使って短期に問題解決の決断を促すという点ではメリットがある。

 しかし最高裁判例は形成権にも消滅時効は成立するとしている。そして賃料増減請求権は5年で消滅時効が成立する(大阪平12年9月20日・東京昭60年10月15日・名古屋昭59年5月15日)と各々の地裁が判決している。

 結論、判例によれば、質問者の増額地代の差額分は平成2年5月から平成8年9月分に関しては既に消滅時効が完成しているので6年6ヶ月分の賃料債権は消滅したことになり、支払う必要はない。


毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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